ベビーベッドの過去

私達家族は、長い不妊治療を経て数年前に第1子となる娘を授かりました。
その当時で、私は40代、妻は30代後半。
もう2人目を作るのは難しいだろうと考え、成長と共に不要になっていったベビーグッズ類は全て処分するようにしていました。

ところが昨年、妻がまさかの自然妊娠。
あれだけ苦労したのにこうもアッサリなのかと驚きましたが、神様からのサプライズプレゼントに興奮を隠しきれなかった記憶があります。

ベビーグッズを捨てた事が勿体無いと後悔しましたが、これも嬉しい悩みだと切り替え、また1から取揃え始めました。

かなりの予算が掛かると予想していましたが、妊娠を知った妻のママ友から衣類やチャイルドシート、おもちゃ類などを頂く事が出来、さほどお金を掛けずにほぼ大半のベビーグッズを揃える事に成功しました。

しかしベビーベッドだけは大苦戦。
どの家族も早々に処分していたり、まだ子供を作る予定があるなどの理由があり、これだけは自分達で買うしかないなと諦めて購入する事にしました。

「1年も経てば不要になるから、なるべく安いものを買おう。」
そう思って休日に子供用品のお店へ行ったのですが…予想以上の価格にビックリ。
1番安い量販店のものでも数万円程度し、ずっと使う訳ではないのにこれは勿体無いと思い、とりあえず購入を保留。
その後妻と話し合った結果、少し抵抗はあったもののお金にはかえられないと考え、中古ベッドの購入を決めました。

しかしこれについてもかなりの苦戦を強いられ、どのリサイクルショップへ電話しても取り扱いが無いか、ブランド物で高い等、なかなか理想の価格が付いた物を見つける事が出来ませんでした。

そんな矢先、たまたま通りかかった所に個人経営のリサイクルショップがあるのを見つけました。
ネットで調べてもお店の詳細な情報は無かったものの、一応ダメ元でお店に入ってみたのです。

するとあったんです!
店内奥に、1台だけベビーベッドが!
値段はなんと3000円。
状態も良く、「ここのお店はベビーベッドの相場を知らないのかな?」と思いつつ、他のお客さんに取られないようすぐ購入。
「こんなに安く買えて超ラッキー!」
と内心大喜びで家に帰って早速組み立て、消毒をし、これで赤ちゃんを迎える準備が全て整ったと一安心しました。

しかしその日の夜中。
娘の唸り声で目が覚め、体を触ってみると酷い高熱が出ていました。
計ってみると39度を超えており、慌てて休日夜間診療所に向かいました。

診断した医者からは
「喉も腫れてないし、肺も綺麗な音。これといった異常は無いけれど…何でこんな熱が出るのかな。とりあえず解熱剤出しておくから、熱が下がらなかったら1度大きな病院で診てもらった方がいいね。」
と言われました。

帰宅して解熱剤を飲ませ、そのまま寝かせましたが症状は全く落ち着かず、翌日に大きな病院を受診しましたが、結局原因は分からないまま。
医師からは食事や水分が十分に取れていないから入院の必要があると言われ、妻が子供に付き添って、私は仕事の都合もあり家へ帰る事にしました。

子供の対応でバタバタとしていたので、疲れと睡眠不足になっていたのか、私は家に着くなりお風呂にも入らずそのまま眠ってしまいました。

それから数時間ほど眠っていたのですが、突然激しく泣く赤ちゃんの声で目が覚めました。

「テレビの消し忘れかな?」
リビングの方に目をやると、ベビーベッドに小さな赤ん坊がいて、ワーワー泣いている事に気が付きました。
「???」
何が何だか分からずパニックになっていると、奥から見知らぬ女性が包丁を持ってベビーベッドに近付いて来るのが見えました。

私は
「おい!何やってんだ!」
と叫ぼうとしましたが、全く声が出ず、金縛りに掛かったような状態でピクリとも動く事が出来ません。
声は出なかったのですが「やめろー!」と叫んだ瞬間、ハッと目が覚めました。

慌てて飛び起きベビーベッドの方に行きましたが、きちんと整えられた状態になっており、そこでようやく夢を見ていたのかと気付きました。
しかしこのベッド買ってから子供も熱を出したし、あれはもしかして夢じゃなくて、あの赤ちゃんが俺にSOS出していたのかもな…と考えました。

妻に事情を話し、念の為近くのお寺にベッドを持って行って供養してもらいました。
するとその後、娘の容体も回復し、まるで何事もなかったかのように元気になったのです。

結局は新品のベッドを購入する事になり、さらには供養に掛かった費用も含めて、かなりの高額になってしまいました。
しかしあの赤ちゃんを救う事が出来たのかなと考えると、これで良かったのだと今でも時々思い出す、私の不思議な体験でした。