山での不思議な出来事

今から十数年前、当時は俺は「ビジネス交流会(仮名)」とか言う大学サークルに所属していた
規模は確か30人ぐらい。詳しい数は覚えていないけど、女子は10人しか居なかった。

一応ビジネス関係のマナーとか、出席時はスーツ着用義務とかされていたり、
OBの縁でオフィス街にある大きめの喫茶店経営(だがバイト)を経験したり、
現役社長・役職持ち・デパートの偉い人・スチュワーデス・警察官(キャリア組?)・中古販売店(という名のヤクザ)・接客セミナーの講師とかから接客術を教えられたりしていた。

……と言うのはもちろん建前。
そんなにポンポン来てくれる訳じゃないし、OBの喫茶店も週1~2でしか出ない。
メインは東京の居酒屋を飲み歩くみたいな今で言う飲みサーだった
女性比率は極端に少ないし、ほとんどの美人は体育系ヤリサーに誘拐されていたので女性関係で揉め事のない比較的いいサークル

ただ飲みの席である日「出会いがほしい」と当時の会長(交流会なのでリーダーが会長と呼ばれていた)が言い出した
するとサークルメンバーが「そうだそうだ」と同調し始めて、

「なら山岳部と交流したら?あそこ美人多いよ」と男まさりだがずば抜けて美人のA子さんが提案した
A子さんは美貌もあるけど自身が持っている知性とコミュ力で本当に人間関係が広い人だから、すぐに山岳部との会合()を取り決めてくれた。

その山岳部と言うのが若干百合色の強いサークルだと有名で、
男は基本的には入れない、入っても自由がないサークルだと聞いていたけど、
とにかく美人揃い、しかもヒモになった部員も多いと聞くお嬢様揃い。
馬鹿な会長や俺らは「イケイケー!」と山岳部に突撃しに行った。

結果、
山岳部部長(通称:山岳姫)に「そんな体でよく山岳部と活動する気になったね?」と
「どうせ下心丸出しでしょ?A子から聞いているから」と怒られた
その後も山岳姫や山岳女子部員、僅かに居た男子部員からも散々貶された
一方でコッチの女子メンバーと「行こう行こう!」と誘拐(笑)されてしまい、

本当に女子に飢えてしまった会長や俺ら(6人)のみが、必死に山岳姫に頼み込んだ。

書き忘れたけど、その時なぜ会長と俺らが必死になったかと言うと、
山岳を通して愛が深まっていく話とか、そういうラブストーリー映画を見過ぎた
あれだ、童貞を拗らせてた。

山岳姫の方も「意気込みを買った」と言ってくれたが、
本当に未経験者がイキナリ山に登るのは危険なんだと教えてくれた

山岳姫「そんな体型で一緒に山登られてもダセェし、怪我されても迷惑だし」

会 長「いや、なら(誘拐された)ウチの女子メンバーは?」

山岳姫「あの子達だって今体づくりしてもらっているよ?」

会 長「え?でもなんか来週山登らしいけど……」

山岳姫「ああ、まあレベルは低いし女の子ぐらいなら私たちでもどうにかできる。
でも男子は嫌だし重いし無理。男なんだし自分でなんとかしてもらいたい」

(´д`)ェェ…と露骨な顔をした俺らを余所に山岳姫は適当に10冊ぐらい本と、
翌日、部員で考えたらしい筋トレメニュー表を渡してきた。

もうなんて言うか、メチャクチャな筋トレメニュー表で3人ぐらい脱落。
何故か山岳姫や山岳女子部員に罵られながら体づくりをする日々を過ごし、
途中誘拐されちた子が山岳部の男子と交際はじめたことによる殺意から

山岳部作成のテストをクリアすることで、ようやくスタートラインに立てた。

山岳姫もその時ばかりはすごいカワイイ顔で、日頃罵ってきた女子もいい笑顔で
メッチャ褒めてくれた(´ω`*)今でもいい思い出

 

山岳姫「正直、あんなメチャクチャなトレーニングをこなすとは思わなかった」

会長・俺ら「え?」

どうやら「10」と言う数字を「100」にしたりしていたらしい^q^

山岳姫「まあいいでしょ。ポカリとか湿布とか散々差し入れたし?ねっ」

他女子「ごめんねー(>人<:)」「いや皆すごいよ(^^)」「カッコいいよ!(^^ゞ」

会長・俺ら「ええ、もちろん。気にしておりませんよ(`・ω・´)」

山岳姫「それであなた達には最初は○○のルートを歩いてもらう
 一応これが最終テストになるけど、山登というより散歩よ散歩
 あのメニューこなせたなら余裕だと思う。皆の予定は(ry」

とトントン拍子で話が進み始めた。
多分この辺りで山岳部も俺らのことを認めてくれたんだと思う。

その散歩した場所というのが秋田・岩手・宮城のトコロ。
自然豊かな所だと紹介されていた。
名前はぼかすけど、未だに雑誌を見ると初心者向けで乗っている地域だし
分かる人には分かるのかもしれない。
とにかく、山ではあるけどマンガのような山登りをする場所ではない。

で、行くメンバーは会長・俺らの4人と山岳姫・誘拐された女子2名・山岳部女子8名と言う
すげーハーレムな状態で行くことになった。

で、行く日近くになり姫の提案で「作られた歩道あるくだけじゃあれだから」と、
ガチで山の中に入ることにした。雪が降っているわけでもないし、
当日も地元の人に野良犬に気をつけろみたいな事は言われたけど、そんなに危なそうな感じはなかった

最初は普通の作られた道を歩いていたけど、あるポイントで横にずれ山の中を進みだした
予定では二時間もすれば目的地につくでしょ―って感じで、
皆、ニコニコしながら話をしていた。

……男子勢は荷物持ちをさせられ、慣れてない俺らは喋ることもままならなかったが
てか山岳姫たちドンドン行くしマジで辛かったのを覚えている

山の中に入り他の登山客も見えなくなった頃。
一人の女子B子が躓いた。

ソイツはウチのメンバーの女子で口数も少ない控えめな子
すごい幼い顔と体型をしているんだけど身長170あって乳もでかい子だった
ちなみに芋焼酎を一気飲みできるオヤジ気質を持っている子でもあった

あれ、今考えるとタダのでb(ry

山岳姫「怪我はないね?」

怪我はないかそこはかっこよく山岳姫たちがチェック。怪我はない

B子「すみません、何かに躓いたみたいで」

他女子「うわー、なにこれ?」

B子が躓いた所を見ると40センチぐらいの楕円形の石が倒れていた。
ホタルの形をしていたといえばいいかな、そんな形。明らかに人工物
そこら辺がゴツゴツしていたのだが、似たような形の石が幾つも転がっていた
一番大きかったのは躓いた石だけだったけど。

山岳姫「火山岩?な訳ないしなー」

会長「あれ、これ持ち上げられるよ」

会長は呑気にその石を大分重そうだったけど、起き上がらせた。

皆、ギョッとした。

なんて言えばいいのかなー…、それは紛れもないお地蔵様だけど。

多分種みたいな形をした石を掘って作ったようなお地蔵様なんだけど、
凄く顔が怖いの。(-_-)な顔じゃなくて( ゚Ⅲ゚)みたいな。激怒しているような顔
それに地蔵様なんだけど腕が四本で両腕を組んで何かを叱りつけるようなお地蔵様だった

会長は「うわぁ……変なの持っちゃった」と嫌そうな顔をして
何人かの女子は「ウワァ・・・最悪・・・」と口々に言っていた

対して俺ら男子陣は「うわwなんだこれww」「コッチも似たような感じだw」と興奮

本当に体型は地蔵さまなのよ。
だけど、顔が犬みたいな地蔵からトンボ?みたいのとか、ほとんど壊れては居たけど
異様なお地蔵様としか言えない地蔵様だった
表情は皆激怒していた。

山岳姫「……ちょっと、いつまで騒いでいるのよ」

会長・俺ら「あハイ……」

山岳姫「山の神様だったらどうするの?罰が当たるわよ」

俺「そういうこと信じているんですか?w」

山岳姫「な!違うよ。ほら、皆もサッサと行くよ」

そう言ってドンドン山岳姫は皆を連れてその場を去って行った
ただそこら辺から妙にジメジメとし始めて、だんだんと自然に皆の口数が少なくなってきた

その時の俺の体調だけど
よく分からないけど意識が無くなり淡々と足を動かしている様な感じ?
意識しないと疲れすら忘れてしまうような感じに俺はなっていた。

後続を歩く俺らは「なんか変な感じしね?」「するする」「祟りじゃー」とか言って
先行する女子に「変なこと言わないでよ!」とか怒られ、シュンとなるのを繰り返してた

そんな中、どんどんB子の体調が悪くなって行ってた。
と言うより、なんか顔色が悪くなっているのはそうなんだけど、やけに辺りをキョロキョロしていた。

会長「B子さん、具合悪そうだけど大丈夫?」

山岳姫「えっ、あ本当だ。唇の色悪いよ」

B子「は、はい……平気です、けど……」

みんな「ん?」

B子「さっきからコッチ見ている人いる気がするんです」

皆慌てて周囲を見渡すが、木、木木岩、木木岩岩、木木木と言うような感じ。
見通しは悪くはなかったから人が居れば誰でも気がつくと思う。

山岳姫「あれじゃない、動物の視線じゃないかな?ww」

女子「お猿さん居るのかな」「狸がいいなー」「私は狐がいい」

山岳姫「クマ……じゃなければいいわ」

全員「(-_-;)う、うん……」

B子「それに躓いた所がズキズキし始めて。さっきまで平気だったのですが」

山岳姫「え本当?ちょっと見せてみて」

長ズボンを脱がなきゃいけないから、男子勢の会長・俺らはそっぽを向かされる。
その時会長が「あれ?」と何かを遠目に見ていた。

後ろでズボンを脱ぐ音が聞こえて、途端「キャー!」とB子と他女子の悲鳴が聞こえた。

ビックリして俺らは振り向く。すぐに女子たちに「な、何見ているのよ!」と怒鳴られ、
同時にB子を隠されたがハッキリとB子の足を見てしまった。

ふっくらとしていて可愛らしい足だったんだけど、
右足だけ腐りかけの豚肉みたいな色になってた。
もろに青い血管の筋が見えて、同時に血の気のない青白い肌。
ひと目で「これはただ事ではない」と感じた。

山岳姫だけは悲鳴を挙げずに「痛くない?ズキズキするだけ?」と何度も訪ねていて
B子は「は、はい」と答えていた。

多分やりとりは↓だと思う。

「感覚はある?」「あ、あります……」
「冷たかったりしびれは?」「な、ないです……」
「なにか異変はない?」「ズキズキするだけで」
「歩けるの……ね?」「う、動きはします……」
「休んだ方がいいかな?」「へ、あはい……」

結局、B子の様態が回復するまで俺らは休憩になった。
女子達はB子の周りに集まって「大丈夫?」「骨折なんかな?」とか行っていて

山岳姫と山岳についてかなりガリ勉していたC男の二人が話し合っていた。
C男の両親も昔は登山をしていたらしくテストも俺らの中で最優秀だった
だから意見求めて山岳姫に呼ばれたのだと思う

俺らはというと、女子たちの飲み物を用意したり、ブルーシートを広げたり、変に呑気になっていた。
いや内心パニックになっていたがB子に近づくことは許されないし、
女子達が妙に団結を深めてしまっていたので「助けを求められたら全力で動こう」と言うスタンスに切り替えていた。

途中会長が「クマって木に登るかな?」と言い出した。
俺らは「登るんじゃなかったかな?」「く、クマ居ましたか?」と聞くと

チラッと盗み聞きしていたのか、今回の山岳にかなりノリノリ&肉体改造に成功していたD男が会長に何かアイコンタクトを送った。
ものすごくジッと「言うな!」と言う感じだった。
会長「いやなんでもないよ、ごめん」と謝る。

そんな不可解な状況になっていると、山岳姫が「ちょっと何人かこっち来てー」と呼んだ。
俺らと、女子の方から6人ほど山岳姫の元へ集まった。

山岳姫「やっぱりB子さんのあの足は異常だと思うの」

みんな「ですよね」と分かり切った表情で話を聞いていた。

山岳姫「救援を呼びに行こうと思うの
 私たち無線機持っていないし、あの様態のB子さんを動かすわけには行かない。
 かといって私たちが動かないと事は進まないから」

皆の顔が真剣になって行く。

山岳姫「今C男君と話したけど、多分私たちは此処ら辺にいる。
 もう少し行けば目的地に着く。あれならすぐ横を進んで山道に出てもいいと思うわ
 今きた道を戻るよりは確実に早いはずなの。」

皆「・・・あの」「あれ?」と声があがった。

山岳姫が提案したルートは少し変だった。
と言うのも、山岳姫が説明したルートと今きた道を戻るのは差がなさそうに見えていた。
アレコレ結構説明してくれたんだけど、微妙に納得できなかった。

山岳姫「あ、あの変な場所通らないで済むのよ」

その言葉で全員大きく納得した。
確かにあの変な地蔵地帯を通るのは嫌だった。だからそう提案したのだろう。
その時は俺はそう思っていた。

その後、山岳部のメンバー3人とC男、まだ経験が浅いからと誘拐されていた残りのE子
計5名が救援を呼びに行くグループになった。

本当は散歩的な登山とは言え、初登山の初心者である俺らも帰される予定だったが
流石に会長と俺は反対し、男手があったほうがいいだろうと認めてもらった。

見た感じD男も行きたそうにはしていたが「お前らみたいな男に任せられない」と
ギャグみたいなことを言って残ってくれた。

山岳姫「私はこの中で一番経験あるし責任あると自負している。だから残る」

そう言ったあと、救援を呼びに行くグループが一度集まって話し合った後、出発した。

再びB子の周りに女子や山岳姫が集まっている感じで、
蚊帳の外の俺らは少し離れた所で辺りを見渡していた。

またしても意識を失うと言うか思考が停止するか、先ほどみたいな状況になったのか
もしくは危機感が無くなり暇を実感し始めたのか、俺はボーッとし始めた。

会長「おい、オレ君どうした?」

そこでハッとした。いつの間にか俺は立ち上がっていた。
山岳姫に思わず相談すると「斜めの場所にいるから感覚がおかしくなっているんじゃないの?」と軽く言われた。

ただ右足が歩き出そうとしていた気はしていた。

男グループに戻ると、会長とD男が何かをコソコソ話し合っていた。
二人は俺に気がつくとその話をすぐにやめた。

ちょっと仲間はずれにされイラッとはしたが、すぐにどうでも良くなり再び座り込む俺。

会長「うーん……、ちょっと山岳姫さんに会いに行ってくる」

今度は会長が立ち上がり、山岳姫の元へ。

山岳姫のそばに行くと会長はB子さんに「大丈夫?」と声をかけた後、
山岳姫さんの小声で何かを伝えて二人は少し離れた場所へ行った。

会長が何かを言うと、山岳姫が「えっ」と言った顔をした。
そこで会長が何かを話、山岳姫は頷いていた。

そこで会長が走り戻ってきて。

会長「何もしていないのはアレだから、すこし立って辺りを見渡しておこう!」と提案してきた。
D男は分かっていたのがすぐに立ち上がり、俺も後に続いた。

残った女子たちが「えー何やっているのよ」と、状況に慣れてきたのか笑っている。

会長「男なのでレディーは守らないと」

プッと数人の女子が笑う。
会長は突然キザな男子を演じてナンパする人で有名であった。
それをこんな空気で発動させたのは、会長なりの配慮だったのかもしれない

見回りと言っても、三人がB子を中心に少し離れた所にたち、漠然と周囲を見ているだけだった。
一応東西南北を意識していて、俺らが見ていない方向は山岳姫が見ていたと思う。

木と岩しかない変化のない景色が数分続いていた。
だから奥で何かが動いた瞬間、すぐにそこに注目できた。

俺は何だあれと動いた物を確認する。

確実に何かがコッチを見ていた。おそらく人だと思う。
当時は視力に自信なあったし遠くまで見えるつもりだったのだが、
その『おそらく人な物体』の顔がボヤケて全然見えやしない。

山岳姫「俺君!!!!!」

ものすごい大声で山の中に山岳姫の声が響き渡った。
そこでハッとすると俺は木に激突しながら歩こうとしていた
ポケモンで壁に激突しながら歩き続けているあんな感じなアホな感じである。

俺は振り返ると、結構な距離の場所に居た。
会長と山岳姫と二人ぐらい女子が追いかけてきていた。

会長が言うには、俺が突然「人がいる!」と言って走りだしたらしい。
ただ斜めな山に従って走っていったので、俺は敢え無く木に激突したらしい。
それを見て思わず皆笑ったらしいが、
俺は木にぶつかりながらも腕を振るし「おーい」とか言っているしで、
だんだんやばく感じて見に来たらしい。

俺はまったく覚えていない事を山岳姫たちに伝えた。
デコには血が滲んでいたので結構ゴリゴリしていたらしい

俺「あれ?てかこの木だけ少し変じゃね?」

俺は木を撫でていると変な違和感に気がついた。
木の至る所を引っ掻いたような後があったのである。
ただゴリッと言うより、ガリッと言う感じで浅く彫刻刀で削ったみたいな感じでもある。

で、普通なら気が付きはしても大して違和感なんか抱かないんだけど、

そんな状態の傷跡が木の上の方にまであるわけ。
明らかに身長が2mあっても届かない所にも無数に引っ掻いた後があった。

そこで俺の頭の中に何か嫌なイメージが流れる。

俺が必死に木を引っ掻きながら上まで逃げようとしているのよ。
で下を見ると無数の黒い塊、目の部分だけポッカリと白い穴の人型が手招いている。
俺は息を荒あげながらドンドン木を登っていこうとする。爪を立てて。

ただ、そんなイメージを思いながらも意識はハッキリとしていた。
でも指先から血が垂れていた。しかし爪は折れていないし痛みもない。
深爪だった覚えもない。

会長と山岳姫は顔を見合わせて、俺以外の皆をB子の元へ帰らせた。
帰った他の皆は木の違和感を見て「うーん・・・」と悩ましい顔をしていた。

会長「俺君さ、黒い人見なかった?」

そこで本当に僅かな時間忘れていた『おそらく人な物体』の事を思い出し告げる。

俺「た。確かに……色は黒でした……」

それに顔は分からないけど、容姿を思い出してくる。
一言で言うとナマハゲ。
一頭身のでかい顔に頭から藁を被ったようなナマハゲ。
両手に包丁は握っていない。

会長「さっき、熊のこと聞いたじゃん……、俺も多分そのナマハゲみたいの見た」

山岳姫「言わなかったけど、私も見ているの。
 他の子も言っていないけど、何か見かけているみたい」

会長「D男は見ていたようだね。口に出すのは災の元と言っていたけど」

その後、俺はイメージの言を伝える。

そうすると木の傷跡が爪で引っ掻いた跡に見えてきて、だんだん呂律が回らなくなってきた。

会長と山岳姫は「他の木も見てみる」と言って、結構な周囲の木を確認しに行った。

俺は絶対にその話を皆にするなと言われて、皆の元へ帰された。
D男は事態を察していたのか「お前呼ばれているんじゃね?気をつけろ」と背中をパンパンと叩き、俺の近くに居てくれることになった。

俺はウエットティッシュ(もしかしたら弁当用のおしぼり)で
指先をふきとりあえず綺麗にした。爪の間には血は入り込んでいなかった。
と言うか血だとは思うのだけど、サラッと拭き取れた。

その後、心配してくれた女子部員さんが二人ほど来てくれて、サンドイッチをくれたりした。
たぶん気分を紛らわすためだけど、サークルの話とかをしていた。

B子は落ち着いたらしく眠りについていて、今は他の三人が様子を見ているらしい。
何度かコッチに来た子が「さっき変なの見えたのですけどー」と、明らかに探るような笑顔で訪ねてきたが、
俺もD男も「いや見てないなぁ……」「俺はぼーっとしてて」と言って誤魔化した。

会長と山岳姫は結構な本数の木を確認していて、時々木の前に止まって見上げたりしていた。
多分10本以上は見上げていたと思う。

そんな感じで時間を過ごしていると、遠くの方で雷が鳴った。
少し寒くなってきて本能的に「雨がふる」と感じた。
天気予報では当分晴れが続く筈だし霧もなかった筈なのに。

山岳姫と会長は走って戻ってくる。

山岳姫「雨が振りそうだから皆カッパ着て!」

だが、カッパを持ってきているのは会長・俺・D男と山岳姫と他二人。
会長と俺とD男に山岳姫はカッパを持ってきていない人たちに渡した。
B子も持ってきていなかった。

カッパを着なかった俺らはブルーシートで凌ごうと言う話になり、
そうしていると遠くで雨が降る音が聞こえてきた。

カッパを着ているが、一応B子に雨が当たらない様にとブルーシートを屋根代わりにカッパ着た女子たちが端を持って立つ。
カッパ着ない組の俺らは、B子の近くから少し離れた所でブルーシートを掲げて雨をまった。

すぐに雨が降り始め、雷が鳴る度に女子のほうでは「キャーっ!」と悲鳴が上がっていた。

俺らの方は残念ながら余裕でビショビショになっていた。

山岳姫「このままじゃもっと濡れちゃうからテントみたいにしましょう」

俺らは横で屋根を作っている女子たちに申し訳なさそうに言いながら
四人で隅を持ち、ブルーシートの中心に登山用の杖を四本指して、
自分たちを包み込むようにブルーシートの中に入る。

説明が下手だけど、なんて言えばいいのかな内側に折り込む?なんかちがうな。
まあとにかく濡れない感じかつ外に声が聞こえない感じになった

生乾きの匂いとジメッとはしているが熱くない空間が広がっていた。

山岳姫「オナラしたらソイツ外につき出すからね」

山岳姫の言葉に俺とD男の緊張が吹き飛び思わず噴出す。
ただすぐにそんな空気も薄れていってしまった。

D男「……遅いよな、C男たち」

山岳姫「……言いたくなかったけど、そうよね」

俺「何事もなければいいなぁ……」

会長「俺君、馬鹿なこと言っちゃだめさ……」

外の様子は見えないが、外では女子達がキャッキャしていた。

山岳姫「最悪、Bさんを背負って私達が助けを求めに行く必要あるかもね」

俺「なんでそれが最悪なのですか?」

山岳姫「うーん……、何かあったりしたらね」

何か理屈で説明されたけど、とにかく無闇矢鱈と動くのは危険だと言うことだった

俺「それで木の様子を見て来たのですよね?」

会長「うん……俺君が見つけた木の他にも結構あったね」

山岳姫「私の見立てだと、小動物とか……と思いたいけど、
 俺君の話聞いたらそう見えてきてね……でも尋常じゃないよ、あんな感じなの」

D男「他の奴らもいい加減気が付いているんじゃね?
 何人か小さい声でキャって言っていたしさ」

俺「害があるのかな……」

D男「どうかな。もしもアレがさっきの地蔵みたいな奴と関係しているなら、
 B子は地蔵を踏みつけたから、ああなったんじゃね?
 面白がって他の地蔵を起き上がらせた俺らも、俺らなんだけど……」

山岳姫「そんな事言ったら、私なんか内心ふざけるな!って思って
 思っきり蹴飛ばしちゃっていたしさ……、他の子も何人も踏んでいると思うよ」

俺「そう言えばC男のやつ、小さい地蔵投げてなかった?」

空気が重くなった。今の話の流れでその事を思い出したのを俺は後悔した。
しばらく雨がブルーシートを叩く音と、隣で女子達が恋話(B子を交えて)しているのを聞いていた。

D男「ちなみに霊感あるやつ居る?俺は親父の実家が寺なんだけど……」

突然言い出した。

山岳姫「私は家が神社なので……少しはあると思います」

会長は合コンの話を思い出し俺を指さして「俺君と俺は自称霊感アリだったっけ?」と
ちなみに会長と俺は今までネタで言っていたと白状した。

D男「C男のやつはオヤジがキリスト系の神父だろ、確か」

山岳姫「そう言っていましたね……、だから地蔵の所は通りたくないと言ってました」

D男「それでさ、今回のこの騒動なんだと思う?俺は物の怪かな」

山岳姫「私は罰当たりしたんじゃないかと……」

その後二人はアレコレと話をしていた。
あの地蔵地帯はなんだって話が主だったけど、祠や誰かが放置したやつ、
山の神様だったのでは?昔村があった場所?修行場?とか
、ヒートアップしていたが、話に決着することなかった。

でもふたりとも怪奇の線を疑っていた。

会長「今日助けに来ることがなかったら……あそこで一晩を明かす必要あるかな」

山岳姫「さっき見つけた廃墟ですか?」

言うに二人で木の様子を確認していた時、ここからちょっと言った所に建物が見えたらしい。
それは見るからに廃墟の家っぽいと言うこと。

雨は強さを増し強くブルーシートに当っていた
外で話している女子たちの会話すら聞こえないほどに。

その後はダンダンと会話が途切れて終わった。
俺らがしゃがみこんで俯いていた。
もしかしたらD男と山岳姫は寝ていたかもしれない。

突然バシャバシャとブルーシートを叩かれ
「山岳姫さん!会長さん!D男さん!俺さん」と言われた。

俺らは慌ててブルーシートをめくり何事かと顔を出した。

血相を変えた様子で、山岳部員で俺が気になっていたF美ちゃんが立っていた。

F美「G子とH美ちゃんが倒れたんです!」

見ればB子の他にカッパを着た女子が二人倒れている。
その顔がB子のあの足と同じように腐った豚の色になっていた。

山岳姫「なにがあったの!?」と取り乱しながら駆け寄る。

F美「急になんか訳の分からない事を呟いたと思ったら倒れて、
 どんどん顔が変な色になっていって!それで!」

顔をグチャグチャにしながらF美ちゃんは泣いていた。
その時、すぐ近くで雷が落ちたんじゃないかというほどの雷鳴が響いた。
一気にパニックになる女子達。

会長が山岳姫に「雨を凌ごう。此処を離れよう」と訴えかけた。
すぐに山岳姫は皆に廃墟の事を説明、全員何も言うことなく返事をした。

その間に会長の指示で俺らはバックからビニールテープを取り出し、適当な木に結びつけて、それを動ける女子に渡した。

俺らが持っていた荷物は往復して取りに行くことにして、
男たちで女子を背負い廃墟で駆け足で向かう。

山岳姫の声と雷がとにかく俺らを追い立てていた。

廃墟は2階建てでそんなに奥行きもない縮こまった家だった。
洋風みたいな洋館なんだけど、瓦とかは日本を感じさせる感じの。
見えるガラスは割れていないけど、とにかく曇っていた。
それに何でこんな所に家なんか建てるんだと思うような感じで建っていた。

山岳姫がドアノブをガタガタやった後、すぐに近くの窓ガラスを破り鍵を開け侵入。
すぐにガチャッとドアが開き「早く入って!!」と叫んだ。

正直見るからに出そうなので躊躇った。
でも「来ているぞ!早く入れ!」とD男に叫ばれ、全員どんどん廃墟に入っていく。

全員がはいったのを確認すると山岳姫は音を立ててドアを閉めた。
ものすごい量のホコリが舞って俺とか会長は思っきり咳後んだ

D男と山岳姫は窓から外を見ていた。
D男はお経なようなモノを唱えているし、山岳姫も震えながら睨んでいた。

D男・山岳姫「大丈夫そうね」と力が抜けたように二人して腰を下ろす。

俺は背負っていたG子さんを降ろすと「もう少し様子を見てから荷物取りに行くぞ」とD男に言われた。

腰が抜けて泣きじゃくる女子たちと苦しそうに唸っているG子・H美、B子は死んだように寝たままだった。

会長と俺は窓から様子を見ると、木の陰や至る所に黒い影が見えて逃げるように隠れた。
二人して「見えたようね、見えたよね?」と言い合った。

その後、誰も一言も発することができなくなりしゃがみこんでいた。
しばらく立って雨音が弱まった頃、外を見渡して黒い影が居なくなったのを確認。

会長と俺、D男、それに意地でも手伝うと言ってついてきた山岳姫を連れ
自分たちが居た場所に戻った。
迷うほどの距離じゃないけど、廃墟まで伸びていたビニールテープを握っていた。

戻ったら食料が入っているカバンは全部無事だったけど、
女子たちが持っているような軽いカバンはビリビリに破かれ散乱していた
もうなんか狂った様に散らかしたみたいに、さっき食べたゴミも散乱している。

「怖がらせちゃ悪いから」と山岳姫の提案で、そのことは黙って
持って帰れるだけの荷物を持って廃墟に足早に俺らは戻った。

廃墟に戻るとB子を含む二人が服を脱ぎ下着姿で横にされていた。
ただ俺らは興奮とかアッと顔をそらす訳でもなく呆然と三人を見ていた。

B子の足の具合は左足の太もも膝まで色が悪くなっている。
一方で二人の方は顔は撫でた指の跡の先に肩の辺りにビタッと手形がついていた。
一人は顔が半分まで変色していた。その二人のほうは他に異常はなかった。

見るのも痛々しく、山岳姫が「皆服着せるよ」と黙ってモクモクと作業していた。

俺は持って着ていた懐中電灯を山岳姫に渡し、残りの三つを一時的に俺らで借りた。

俺らは目線を逸らすついでに廃墟の中を見ていた。
大きめの暖炉とテーブルに汚いソファがあるだけの一回。
壁に日本刀とよく分からないけどオブジェクトが飾られていた
あとバケツが二つ転がっていた。カーテンはホコリと蜘蛛の巣を纏ってた。

あと何かアッたけどイスか机と棚だったと思う。食器類はなかった

水道や電気と行った文明的なモノは見るからになかった。

壁には幾つか洋風の蝋燭立てがあるだけ。
そこに残っている蝋燭も大分ホコリと蜘蛛の巣だらけだった。

二階に上がれる階段は既に朽ちて落ちており二階に上がれなかった。

途中、見るからに底が抜けそうな所は案の定、思っきり踏むとベギっと抜けた。
俺らが飛び込んだ玄関付近ぐらいは幸いにも丈夫だったのかもしれない

とにかく砂埃とホコリがすごく、外は夕方近くだが明るいのに薄暗い家だった

D男「こんなのあったよ」

木箱に入った蝋燭と壁から取ったりや暖炉に飾られていた蝋燭立てを持ってきた。
中々刺すのが難しかったのを覚えている。なんか蝋燭が何本もボロボロになっていた。

二階に上がれる階段は朽ち落ちていた訳ではなく、
急な階段はあったけど、見るからに朽ちていたので登るのを断念したそうでした(確認したの会長)。
二階には多分残されているモノはそうなかったと思われます。

蝋燭の火を会長が持ってきていたライターで火をつけると部屋の中が明るくなる。、
それだけで部屋の中はユラユラと火の光で明るくなって、同時に全員が落ち着きを取り戻し始めた。
男手はホコリだらけの床にブルーシートを持ってきて敷き、異常が起こっているB子たち三人を横にした。
その後、窓から様子を伺うのに徹した。

何度か窓の外に黒い影が見える。ただ一定距離からコチラに入ってくることはなく向こうもコチラの様子を伺っているようだった。

ただ誰もしゃべらず漠然と時間だけがすぎる。
時折聞こえてくるビニールテープのカシャシャシャと言う何かが触れる音と、
カタカタ多分普通に物音なんだけど歩く音みたいに聞こえた。

山岳姫「救援が来る様子はないね」

全員分かっていただけに妙に苦しい思いな顔をしていた。

山岳姫の指示で残りの食べ物・飲み物を確認する。
ポイントについてから飲む予定だったインスタントコーヒーとぬるま湯、他女子が持っていたジュースとお菓子、それに弁当が残っていた。

とは言っても一日持つかどうかも怪しい量で今日の晩の分を山岳姫は分けた。

山岳姫は「テント張る予定だったら持ってくる物は持ってきていたのだけどね」と言っていたのが印象深かった。
つまり大した日数どころか一日も持たない量だと皆察したからである。

そのまま何事もなく俺らは夜を迎えた。

雷は遠くで鳴っていて、雨の音は激しさを増していた。

一度、火の近くに全員集まりながら(B子たちは横にして)、その日の晩の分を食べた。
女子たちは倒れた三人に食事をとりあえず取らせようとしているが誰も飲み込めていなかった。
結局無理やりでも食べさせるのは「詰まったら危ない」からという会長の言葉でやめにした。

食事を取りながら話を交わしていた。

山岳姫「さっき言っていた訳の分からないことってなに?」

F美「き、聞きますか……」

F美が言うには口数が少なくなってきた頃、最初にG子がソワソワし始めたらしい。
それに続くようにH美もキョロキョロ辺りを見渡していたそうだ。

G子「なんか何か見える……こっちを見ているみたい」

H美「そうだよね?何かさっきから視界の端に映るんだけど……雨の雫かな?」

他のF美含む異常がない三人が周囲を見渡したけど、何も居なかった。

ただG子とH美は「居るよ居るよ」と言い出して二人して肩を寄せていたらしい。
熊だとかイノシシだとか言っていたけど、そうじゃないとも言っていて、

突然キャ!と悲鳴あげて「顔顔ナデた」「今触られた!」と言い出し、
二人は顔を撫でてパニック状態になった途端、フッと倒れたそうだ。

すまん下手くそな説明だけど当時そう説明された。
多分各々が説明を脳内補正していたと思う。

山岳部員で異常がないF美を始めとする三人は「今何が起こっているんですか?」と聞いていた。
山岳姫は三人が何も分かっていないのを察してか「雰囲気悪いところに居たから調子崩しただけよ」と三人を励ましていた。

俺やD男で「男達で見張っているから皆は寝ていな」と言う。
もちろん全員拒否したが、会長が「寝れる時に寝ておかないと」と映画か何かでありがちな台詞を言い、
山岳姫は「皆、素直にそうしなさい。私は申し訳ないけどそうするね」と率先して横になる。

俺たちは塞げそうな物で塞げる所は塞いだ。
そんな物音でも女子達は山岳姫を除き全員寝ていた。
俺らも疲れてはいたが、女子たちも相当疲れていたんだなと思った。

山岳姫は「私は平気だから」と言って女子達を見ながら、
時折小さな唸り声をあげるB子たち三人の様子も見ていた。あと火の番をしていた。

俺らはドア側の窓から外の様子を見ていた。

会長がコーヒーを貰ってきて「今日は徹夜で見張りかもなー」と言った。
あとで「変わってもらう」とかさっき言っていたが、そんなつもりは毛頭なかった。
お湯もほとんど冷めていてインスタントをかなり浸しながら飲んだ。
砂糖とミルクは非常食になるからと入れずに飲んだコーヒーは本当に苦かった。

窓から眺めていた外は月の光で照らされているものの鬱蒼としていた。
本当に真っ暗じゃないけど霧が出ている見たいな。雨で視界もかなり悪かった
とにかく絶対に怖い話とか怖いことを思い出しちゃいけない雰囲気が漂っていた

一応外で何かが動く影があったけど、慣れてきていて俺らはさほど驚かなかった。

俺らは気休め程度に居酒屋の話をしていた。
どこどこの焼き鳥屋が美味しかったとか、あそこのお姉ちゃんは可愛かったな―とか
ちょっと男よりな話題な時は、遠くで山岳姫が「サイテー」と笑いながら言っていたと思う。

少し経ってから山岳姫もちょっと興味が出たのかコッチにやってきて話題に参加した。

会長「そうだ、今話た居酒屋行きません?」

山岳姫「なにそれナンパ?」

会長「ちょww」

俺・D男「会長ナンパですね^q^露骨だわー」

会長「い、いや!サークル同士で何か飲みに行こうと……!」

山岳姫「合コンですか?ww」

俺・D男「女癖が悪い会長で、すみません」

会長「(´・ω・`)」

山岳姫「イイヨ」

俺・D男「え!?」

会長「なんでお前らが嬉しそうな顔しているんだよ……」

山岳姫「ウチの部、合コン禁止なんだけどねw」

俺ら「おおっ!」

山岳姫「ああ言う場、皆強引にお酒飲ませてくるしマナー内人多いじゃん?変態だよねー」

会長「大丈夫!一応、俺らビジネスマナーについて講習受けているからマナーはある方なんです!w(←実話です)
 嫌がる人に強引に酒を飲ませる上司になるなってオッサン連中(講師)から言われてるw」

山岳姫「でもソッチかなりお酒飲んでいるんでしょ?A子から聞いているよ」

俺「お酒飲むけど、普通に飲み歩きしているだけですよー」

D男「あ、ならさ、喫茶店(バイト)で開けば?ケーキ美味しいって評判じゃん」

俺「ああそう言えば先輩もやっていたよね」

山岳姫「ああー例の喫茶店か」

その後、山岳姫に「正直に言って下心あって来たんでしょ」とか、ビシビシ怒られ気味に言われながら合コンの予定を取り付けた。
ちなみに男子は俺ら(・とC男)限定とのことでした。

たしか喫茶店の自慢のケーキについて話していた頃だったと思う。

ゴド、ゴドゴドっと鈍い音が聞こえてきた。
俺が気が付いて皆に言うと、本当だと皆も気がついた。
家を叩かれている音ではなかった。
すっかり見張り番も忘れていた俺らは最悪の事態を想像しながら、恐る恐る外を見た。

黒い影は相変わらず動いていた。白い目がコチラを睨んでいる。
でも音の正体は彼らじゃない。

D男が「なんか見えない?でかい岩?」と指をさす。
最初は見えなかったが、そのD男が指差す物が近くに来た時ソレが見えた。

黒い影とは別に巨大な黒い塊がゴロンゴロンっと転がっていた。
木にぶつかると、方向を変えて、また木にぶつかり、方向を変えて進んできている。
だんだん刺か何かが生えてるようなやけにゴツゴツしているモノだとわかりはじめた。
大きさも4mぐらいあったと思う。

全員釘付けになったかのように見た。

それは人が沢山集まって塊になっている球体だった。
人たちが集まっている球体だった。刺みたいなのは腕だった。
着物を着ている人から当時少し古いと感じた洋服を着た人、
登山風の格好をしている者に、ふるい日本兵みたいな格好をしたモノまで居た。
ちなみに某日本軍が行軍した地域ではないです。

かなり近づいた時、月明かりでハッキリ見えた。
球体の人たちは白目を向いてパカッと口を開けて仰向けになっていた。
体を仰け反らせてくっついている。ガムテープを丸めて頃がした後にくっついたホコリみたいに。

そこで山岳姫が気が付いて声を上げた。

山岳姫「なんで雨降っているのに月明かり出ているの?」

>>101で気がついた人いると思うけど、確かに雨は降っていたんだよね。
結構。だけど月明かりが出ている状況。それも結構明るく。

今だから考えれば、そういう雨もあり得ると思うけど
それでも長時間降る雨なのに、月明かりが出ているっていうのがやっぱ考えられない。

火の番を疎かにしていた為、火がジュッと音を立てて消えた。

より一層外の形式に目が釘付けになる。

D男が何かに気が付いてパクパクと口を動かした。

D男「アレ……C男じゃね……?」

人の塊がグルグル転がっている途中、見慣れた姿があった。
間違いなく救援を呼びに行ったC男だった。
他にも救援メンバーの山岳部女子の一人がくっついていた。

今でもハッキリ覚えているけど、口パカッと開け白目(?目を見開いている)姿は気味が悪くなる。

会長が窓を開けて「C男!」と叫びだし、山岳部もくっついている女子の名前を叫んだ。
俺やD男も叫んだ。必死に名前を読んでいる。

すると、うまい具合にコッチへ二人を向けた状態で塊が停止した。

C男「ああああああああああああああああああ!!」
女子「あああああああああああああああああ!!」

二人悲鳴がコッチに届いた。全員声が出なくなるほど驚く。
その顔は不安に怯える顔になっていてもがいていた。
俺らの方を見ると「助けて助けて!」「イヤイヤ!イヤダの!」と必死に叫んでいた。
目は辺りを見合わたし、また体をばたつかせ始める。

騒ぎに気がついた寝ていたF美女子達も目を覚ます。
と言うよりB子たちが起きあがり目が覚めた感じだった。

三人の顔はポケーッと口を開けていて正気がないのは一目で分かった。

F美女子達「どうしたの?」「う、動いて平気なの?」

一人がF美を踏み転ぶ。バタバタと脚を動かしている。それが歩いているんだと気が付いた。
他の二人はドアへ向かって歩いて行っている。

訳がわからないながらもF美女子たちはB子たちを止めた。
一人はバタ…バタ…と床へ向かって脚を歩めている。
外ではC男と山岳部女子が悲鳴を上げながら苦しそうにもがいている。
今までリーダーシップを発揮していた山岳姫も何も言えない状態で立ち尽くしていた。

俺は頭の中で流れた嫌な想像を喋ってしまった。

俺「もしかしてだけどさ、この廃墟にさ……俺ら誘導されたんじゃね?」

D男「は!?なに馬鹿なこと言っているんだよ!」

俺「嫌だってそうじゃん!お前も気がついただろ月明かり出ているのに雨が降っている!
 雨宿りじゃないけど他の人間ならそう考えてこの家に入ろうとか思うんじゃないの!?」

俺「ゴキブリホイホイ分かるだろ!?アレだよ!
 都合よくあの黒い影たちに家に誘導されたんじゃねーの!?」

会長「馬鹿なこと言っているんじゃねーよ!」

会長は俺の胸ぐらを掴みながら怒鳴りつけた。
俺はハッとなって口を塞いだけど、そう思い出したら俺は外に飛び出したかった。

会長「と、とにかくC男達をどうしようか!」

山岳姫「もう訳わかんないよ……なんでなんで……」

会長が助言か何かを求めて見た先で山岳姫は頭を抱えて泣いていた。
流石に俺らを含み全員が何か心が折れるような感覚がした。
山岳姫の気丈な振る舞いが俺らを支えていたのだと痛感した。

外では「オイ!!オイオイオイィイイイイイイ!!!!」とC男がコッチを見て怒鳴っていて
女子も「山岳姫さん!山岳姫さん!!!」と叫んでいる。
家の中は女子達が一斉に泣き出し、B子たちは「ああああ」とかよく分からない声を発している。
山岳姫は座り込んで鳴き始めてしまった。

会長も俺も泣きそうで、D男だけがパニクっているが確りと辺りを見渡していた。

そしてD男はパッと壁に掛けてあった日本刀を手に取る。
刀身は出てこなかったけどかなり重そうだった。

D男「おい!B子たちを行かせるなよ!!」

そう叫ぶとD男は日本刀を棒を持つように持ちながら外へ飛び出していった。
瞬間黒い影がD男に襲いかかるが、D男は日本刀を振り回し塊へ走って行く。

俺も訳がわからなくなったけど、近くにあった水筒を持って飛び出した。
会長も理由は分からないけど、俺と一緒に小さめのリュックを持って飛び出す。
多分俺らは、山岳姫や女子たちを助けなきゃと思って行動したんだと思う。

外に出て分かったが生乾きした雨の匂いと、それ以上に濃い獣の生臭い匂いが充満していた。
黒い影の目が細めたように白い線になりニヤニヤと笑っていた。

水筒を振り回すと黒い影をすり抜けた。ただ黒い影は俺の方へ手を伸ばしてきた。
触れると羽毛の様な感触と冷たすぎる感覚がして、背筋がゾゾッとした。
身の毛もよだつとはこのことかと思った。

霧を吹きかけられたといえばいいのかな。そんな感じで冷たい感覚がズーッと全身に広がっていく感じ。
今やって分かったけど、自分の手をブワッと広げるのを腕にやるとその感覚に近い
あと無数の蜘蛛が腕を這って来ている感覚かな。

あっという間に俺らは無数の黒い影に取り憑かれてしまっていた。
冷たいような熱いような、とにかく獣臭さすぎてクラクラするかと思った。

それでも重くはなかった。
筋肉痛のような痛さはあったけど動けた。指先はしびれていたけど力は入った。

会長「俺君、D男!普通に走れる!ガンバれ!」

顔に黒い小人のような影が張り付いた会長が叫んだ。
小人はクビの部分をヘニャリと曲げて俺を見ていたので少し怖かった。

人の塊に到着すると、本当に大勢の人がくっついているのだと悟った。
白目を向いていて口をダランっとだらしなく開けている人たちがほとんどだったが、
中には「うー!うー!」と唸りながら塊の隙間からコッチに助けを求めている正気がある人も居た。

近づくと無数の手が助けを求めるように俺や会長、D男へバッと伸びて、ウネウネとしている。

「助けて!」「痛い!」「苦しい!」「気持ち悪い!」
「嫌だ!」「ああ!」「コッチです!」「コッチだ!」

自分の状態を告げる声や助けを求める声が大勢聞こえたが、俺らは一心不乱に二人を助けようとした。

二人は球体の人に手や腕、お腹を抱きつかれている形で捕まっていた。
手を叩き、時には多分指を折ったり、多分水筒や日本刀で周囲の人や女子の影にいた人の顔を殴ったりもしていたと思う。

何度も俺らも足や腕を掴まれ転びはしたが、すぐに会長やD男やら、自力でだったりして抜け出し、
再び突撃して助け出すのを繰り返して、ようやく女子を剥がすことに成功した。

C男は女子より酷かった。
顔や腕や胴体など、急に「コイツだけは!」と言わんばかりに腕に掴まれた。
何度叩いても切りがなく、コッチの方が捕まりかけるほうが多くなってくる。

俺らは一度、女子を家の方へと連れて戻ることにした。
両腕を掴んで引きずりながら家でダッシュした。

ただ体に影が付いているのを悟って「ここにおいておくから!」と誰かが叫ぶと、C男の元へ戻った。

その時、人の塊はゴトゴトと動き始めてしまった。

C男の「嫌だああああ!嫌だぁあああ~!ああああ助けて助けて!助けて下さい!」と言う声だけが聞こえてくる。

俺らは迷った。あのままC男を助けるべきか。

そんな時だった。地鳴りのような声で言われた。

「おしい、もう少しだったのに」

複数の低い声をした男が発した声と言えばいいのかな。
その重低音がゴゴゴッと山から響いてきた。

途端、ゴトゴトと何十もの黒い塊が目の前を遮っていった。
それは黒い影に取り憑かれて人が何人も転がって来ていた。
その人達は互いにぶつかると狂った様にお互いを掴み合っていた。
そして狂った声をあげて互いに噛みつき合いながら転がっていく。

もしもC男を追っていたら、あの人たちに体を掴まれていただろうと察した。
腕だけならまだ何とかなるかもしれないが、あんな体全体で飛びつかれ、噛み付かれたら、どうなったか分からない。

C男の悲鳴と絶叫が段々と遠くなっていくのを俺たちは聞くことしかできなかった。
巨大な人の塊も、目の前を横ぎった人たちも、姿が見えなくなる。
いつの間にか俺らの体の取り憑いていた黒い影たちも姿を消していた。
雨も止んでいた。

俺らは漠然とした状態でありながらも、家の方へと戻るしかなかった。
C男の悲鳴は聞こえていたが、どうすることもできなかった。

家に入ると山岳姫が「大丈夫?」と声をかけてきた。
俺らは何も答える事ができないまま、黙って座り込んだ。
酷く疲れたし全身が痛かった。

会長「あれ、あの子は?」

助けだしたはずの女子が家の中に居なかった。

山岳姫「えっと……三人が連れ戻したあと姿が消えちゃって……」

他の女子二人も見ていたようで怯えた顔で頷いていたが、
俺らはもう驚くことができなくなり静かに「そうなの」としか言えなかった。

俺「B子さんたちは?」

山岳姫「暴れるの大変だったけど、なんとか……」

B子たちはデタラメな格好で横にされていた。
止めるのが大変だったと乱れたブルーシートとかを見て、確かに暴れたのだろうと感じた。
床のほうも幾つかの場所が抜けていた。

女子達(F美たち)に「何があったの!?」「アレはなんなの!?」と責め寄られたが
俺らは何も答える事できず「うるせー」としか返事しなかった。
被害者面と言うか、助けて助けてアピールする女子に少しイラついていたのかもしれない。
今考えると、それは普通だし仕方がないことなんだが。

またひとりの女子は何も見えていなかったような事を全員に話していた。
その子が言うには突然俺らが騒ぎ始め、B子たちが騒ぎ始め、外で俺らが暴れ始め
いつの間にか助けた女子がいて、でも急に姿が消えて、なんなのと。
確かになんなのと、俺も感じた。

そんな時だった「おーい!みんな!」と外からC男の声が聞こえた。
慌てて俺らは立ち上がり、山岳姫も他の子たちも、窓から外を見た。

そこには救援に向かった時の格好をしたC男と、
「○○山岳会」と墨で書いたはっぴを着る人たちが4人居た。

疑心暗鬼じゃないけど、俺らはC男のことを疑った。

C男「どうしたんだよ?」

救援隊「うん、どうしたんですかー?」

C男「救助隊呼んできたよ!」

会長「お前本当にC男か?さっきお前が変なバケモノに取り憑かれているの見たんだぞ!!」

正確には掴まれていたか呑み込まれていただけど、会長はそう叫んでいた。

C男「なに言っているんだよwお前ら場所移ってたんだな!w」

そう言いながらC男達はドンドン家に近づいてきた。

D男「まて!」

救助隊「ん、なんですか?」

D男「そこで待ってろ。すぐに行くから」

C男「すみません、なんか混乱しているみたいで」と言いながら歩こうとしたら、

D男「だから来るなっつてんだろ!!」とものすごい声で怒鳴り返した。

俺らは「え、行くの?」と話し合っていた。
女子達の方も薄々「C男じゃないんじゃない」と察していたらしい。
でも女子の一人も「もしかして本当なんじゃない?」と言ったが、
山岳姫が「暗い山道を明かりも持たずにやって来れるのよ?」と言った。

そこで改めて全員がゾッとして口を閉ざした。
外ではC男と救助隊の人たちが「すみませんねー」と世間話するかのように話をしている。

会長「……C男とは長い付き合いだから俺が」

D男「いや、俺が行くよ。あれはどう見てもC男に感じられない」

山岳姫「ダメ、みんな行っちゃダメ」

オレ「多分、行かなければアイツら強引にでも入ってくると思う……」

外では苛立った声のC男が「おーい、まだ?」と呼びかけてきていた。
どう考えてもおかしいのだが救助隊の人も「具合悪い人でも居るのですか?そっち行きましょうか?」と聞いてくる。

オレ「とりあえず今あったことをハッキリと伝えよう。地蔵のことも。
 で、様子を見るし、それでもダメならどうにかして最初に俺らが救助が本物かどうかを確認してくる」

D男「もしも偽物の俺らが戻ってきてもマズイよな……」

山岳姫「それじゃ合言葉は……さっきの日付で」(合コンの日付

そうして俺らは外に出た。一応手に武器になりそうな物を各々持ちながら

最初にC男が「どうしたんだよww怖い顔をしてww」と明るく話しかけてきた。
確かにそんな感じがC男に似て履いた。

だが、俺らは無視してコッチで何があったのかを説明した。

救助隊らしき人たちも「ああ、地蔵の件は聞いています」と相槌していたが、
黒い影や人の塊、その塊にC男がいた事などは何も言わずに黙って聞いていた。

C男「つまり俺がオバケじゃないかってこと?w」

会長「それ以外にないでしょ?」

救助隊「こんな山の中に居たので気がふれちまったか?」

D男「とにかく、最初に救助隊が本物かどうか調べさせてくれ」

救助隊は俺らが山に入った県の救助隊だと語った。
地名も町の名前も合っていた。

あえて明かりのことは聞かずにどうやってきたのかを、会長が尋ねた。

救助隊「いえ、此処ら辺は遭難すると大抵その家に人が集まりますのでー」

会長「此処ら辺で遭難とかあるのですか?」

救助隊「君らも一応今は遭難者だからね^^」

会長「事前に調べたけど遭難なんて話なかったですが」

救助隊「そりゃ数は少ない」

会長「大抵がその家にあつまるのに数少ない人たちが皆あの家に集まるっておかしくはないですか?」

救助隊「まあ、おかしいですが……」

会長「……とりあえず、他の子たちはどうなったの?」

C男は「保護された」としか話さない。
ちょっと目が泳ぎ始めている。

C男「えっと、だからさ……。とりあえずコッチ来てくれないか?
 すぐそこに他の救助隊の人たちも着ているから!」

救助隊「そうです。これ以上迷惑かけるなら山の中に置いていくぞ?」

そういうと他の救助隊の人たちが家へと向かおうとする。

D男と俺で捕まえて突き飛ばす。
温かいし実態はあり変に俺は安心したけど、状況が変過ぎて安心もすぐに消えた。

会長「なら最初に俺らがそこに行きます。その後、本当なら俺らが彼女たちに説明しますので」

少しC男が明るい顔をした。
救助隊は渋々と言った顔だったけど、それを受け入れたようで、俺らを案内し始める。

俺「あの地蔵はなんなのですかね?」

救助隊「いや地元でも聞いたことがないね」

俺「この山には変な話とかあるのですか?」

救助隊「特に聞いたことはないね―」

そんな感じで会話も適当に流されながら俺らは歩いていた。

歩いている間もC男が色々話しかけてくるが、俺らは無視し続けた。
そういう性格なヤツだったけど、もう少し考えて発言するヤツだったのでおかしかった。

D男が「ちょっとおかしくないですか?」と言って全員の足を止めた。

救助隊「なにがおかしいですか?」

D男「ちょっと歩いてみてくださいよ」

救助隊は黙って下を向いた。

D男「いいから歩いてみろよ」

救助隊「……はぁ」

そう言うと救助隊全員の姿が消えた。薄くなっていって消える感じだった。
D男が怒鳴りながら「アイツラ足音を立てていなかった」と言った。

C男は黙ってコッチを見ていた。消えないで。

会長の「お前は消えないでいいの?」を合図に
C男は「ちがうんだ、ちがうんだ、ちがうんだ」とひたすら言い始めた。

C男「そうしないと。そうしないと。そうしないと」

D男「テメェ、オレらの事をどうするつもりだったんだよ!」

C男「助けて助けて助けて、嫌だ死にたくない」

そんな事を言いながらコッチを見ていた。

またゴドン、ゴドンっと、さっきの人の塊の音の倍近くの音が聞こえ、
奥のほうで巨大な塊が動いてコッチに来ているのが見えた。
同時に獣の匂いが立ち込め始めた。

もしかしたら俺かもしれないけど、最初に悲鳴をあげて一人が走りだすと全員して走り始めた。

C男が「待って!待ってください!待って!!」と悲痛な声で叫びながら追いかけてくる。

俺らは手に持っていた物をC男に投げつけたが、全部外れた。

幸いにも、最初に伸ばしておいたビニールテープをすぐに見つけることができた。

C男が「待ってって!待って待って!あああああああああああ!!」と奇声を上げながらコッチに迫ってきた。

ただ、そのまま俺らを追い抜いて行くと、一人足早に家の方へ走っていった。
ものすごい速さだった。

同時に山岳姫たちが危ないと俺らもつられて必死に走った。

家に着くとC男がガラスに手を突っ込みながら、必死に家の中へ入ろうとしていた。
D男がC男を持ち上げるとドテッと投げ捨てた。

丁度奥から唸り声とも鈍い声の悲鳴とも助けを求めている弱々いい声とも聞こえる
重なって意味不明になった声が聞こえてきた。ゴドンゴドンと言う音は続いていた。

俺らがドアを開けようとすると、ドアは動かなかった。
中にいる人達が抑え、山岳姫は「合言葉は!?合言葉は!?」と叫びながらドアを抑えていた。
会長は慌てながら日付を何度も叫ぶと、ドアが開き俺ら三人は飛び込む。

そんな後に続いてC男も飛び込んでこようとした。
腕をはさみながら必死に扉に入ってこようとする。
絶叫しながら「あああああ!」と手をバタつかせていた。
怖かった。

誰も窓から様子を見ず、ドアの影に隠れるように身を隠していたが家の前まで塊が来たのを感じた。

C男のドアを掴んでいた腕がズズッと上がって行く。
C男が「嫌だ嫌だ!はなせはなせ!」と叫んでいた。

そんなのを見ていたら何故か山岳姫が突然C男の腕を掴んだ。
C男もパッと山岳姫の腕を掴む。

会長「なにやってるんだよ!?」

山岳姫「この人は本当のC男君だよ!」

一瞬迷ったが、外から聞こえたC男の悲鳴と助けを求める声を聞いて、俺らもすぐにC男の腕、もしくは山岳姫の体を掴んだ。
ドアから外の様子は見えないが、C男が引っ張られているのは感じた。

どのぐらいそうしていたか分からないが、急ににフッと軽くなりC男の体が落ちてきた。

山岳姫は急いでドアを開けてC男を家の中に入れようとした。

ドアを開けたら底に巨大な黒いモヤが立っていた。
さっきから見ていた黒い影と同じ感じなのだが、奈良の大仏並の巨大さだった。
ここからは見た人たちの話をまとめた結果になるけど、

見上げて見たヤツは巨大な白い目があったや、ニヤニヤと笑っていたとか。
俺とかはしっぽを見ていた。
山岳姫は全身が黒いモヤに覆われているだけで猿だったと言っていた。
同時に周囲に黒い人の塊があったり、無数の人影がこっちを見ていたりしたらしい。

C男を入れの中に入れるのは一瞬だったし、そんなにゆっくり見れなかったが、
とにかく「連れて行かれる!」と強く思えた。本能的に関わっちゃいけないと感じた。

家の中に入れると目を見開いたC男が「ありがとう」と壊れたように繰り返した後、姿が消えていった。

そのまま何をしていたのか詳しくは覚えていないけど、
とにかく外が明るくなるまで家の中でジッとしていたと思う。

あながち俺が口走ったゴキブリホイホイも間違って居なかったのか、
何度も外で「おーい」や壁を叩く音とかしていた。窓なんかとてもじゃないが見れたものじゃなかった。
一度だけドスッ!と家が揺れるほどの強さで壁に何かが打つかったが、それ以外は目立ったこともなかった。

日が昇ると同時に「家を出よう」と話していたとき、ドアをノックされた。

「すまんが、すまんが、一人おりませんかぁ?」と、おばあちゃんの声だった。

「ミハケ様がお呼びだ。C男おりませんか?」

会長「す、すみませんが。そんな人はおりません」

「あら、そうですかぁ。ならぁ、他の方々はミハケ様がお探しですがぁ?」

D男「結構です。お引取りお願いします……」

「なんだぁ。だーれもこねぇの。ならなんで此処に来たんだぁ?」すこし怒っていた。

オレ「す、すみません……来るつもりはありませんでした」

「ンあー?謝らんでいい、ただ次来たら喰ってやるからなぁ」

ここから早口で

「ミハケ様はニンゲン様より知恵がある。ミハケ様は罠をはるのがうめぇ、ニンゲンすら使う。
 オメェらが怒らせたのはワガラ(我ら?)だが、ミハケ様はただオメーらを喰っちまいたいだけだ。
 オナゴが4人もおったら……まあいー。
 日が出ているウチにデテけ、ワガラに貢もミハケ様にも事がないなら出てけぇ
 腹減って動けねーなら、これでも喰っとけぇ。帰れぇ」

そう言うとドアの向こうあった気配がフッと消えた。
しばらくして恐る恐るドアを開けて見ると、ドアの前にはニンゲンの指らしき物が葉っぱの上に乗っていた。

山岳姫が悲鳴を上げて指を蹴っ飛ばすと、遠くのほうで「もったいねーが!!!!」と怒鳴り声が聞こえた。
すぐに再びドアを閉めると「喰ってやるぞ!ミハケ様に喰わせるぞ!」と言う声がした。

また時間をおいて再びドア開けると指はなくなっていた。
代わりに無数の虫が変なシミに集っていた。

その後、B子も体調が治り、他のG子もH美も普通に起き上がり、すぐに家を出た。
腐った豚肉みたいな色も全部消えていた。しかし頭はクラクラしていたと言っていた。

以後、俺らの周りで変なことは怒らなかった。

歩いてそう時間もしないウチにすぐに山道に出れた。
近くを通りかかった登山客に助けを求めて救助された。

先に出ていた救援を呼びに行ったグループは無事に保護されていた。
ただこちらの方は保護されたのが夜中だったそうだ。

救助に向かったグループは何故かあの地蔵地帯に戻ってきていたらしい。
その後も何度も地蔵地帯に戻ってきてしまい、C男が切れて地蔵の一つを蹴ったそうだ。

途端、静止したかと思うと狂った様に笑い声をあげて山の中に走って行ってしまったらしい。
慌てて一人がC男を追いかけに言ったそうだが、その子が俺らが助けだした子であった。

残された三人はとりあえず助けを求め再び道を歩いたらしい。
本当なら遭難の可能性もあるため動かない方がいいが、
絶対に山道から距離は離れていないからと歩いたそうだ。で日が沈んだ頃に保護されたらしい。

情報を受け救助隊がすぐに山に入ったそうだけど、見つけられずにいた。

一方、C男を追いかけた女子は町で発見されたらしい。
体中は握られたようなアザだらけで「強姦事件か?」として騒がれていた。

で、C男は早朝。突然奇声を山道を走っていたらしい。
その時は「助けて助けて!」と叫んでいたそうで、酷い錯乱状態だったらしい。

二人は俺らが保護された少し後ぐらいに意識がハッキリして会話もできた。

ふたりとも俺らの話を何も覚えて居なかった。
ただC男に関しては「なんか悪い事、嘘つこうとしたかもしれない」と謝っていた。

俺らは救助隊にあったことを話したが「ミハケ様」なんて誰も聞いたことがないし、
そもそもあそこら辺で遭難する人も俺らが初めてぐらいだったらしい。
同時に俺らが見たという地蔵地帯も聞いたことがないと言う。

雨に関しては、そんな長時間も降っていなかったと言っていた。
夕方頃に所で降ったが、どこも夜中までそれも俺らが言うほど強く降るのは考えられないらしい。

そして俺らが見た物の正体に関しては「もしも雨が本当なら」と言われた後、
雨が降ったことで落石でも発生していたんじゃないかと言われた。
大きな岩の話のあと、無数の人が転がって来た話を聞いてそう判断したらしい。

その後は、暫くの間、精神病院に連れて行かれた。
山岳姫や俺らのグループは、一番長く入院していたと思う、一ヶ月ぐらい。

その間に山岳部女子たちの両親たち(前に書いたが金持ち)に俺らが変なクスリでも飲ませたのではないかと怒られた。
もちろん山岳部全員がそれはないと訴えたが、怪しいの一点張りで本当にもう少しで訴えられそうだった。
もっとも訴えられても勝ち目はないと当時でも思っていたけど。

そこに一番権力がありそうな山岳姫の父親が「娘たちの話を信じましょう」と言ってくれて事は済んだ。

テレビ沙汰に関しては大学や多分山岳部の両親たちが止めたのかと思う。
ただ新聞には少し乗ってしまっていた。小さく遭難と書かれていた。

多分大事にならなかったのは、遭難してもすぐに救出できるような場所だったからかもしれない。
やっぱり両親たちの働きかけもあるかもしれないが。

入院中調べたりしたが結局ミハケ様の正体は不明だった。
OBの探偵(笑)に調べてもらったけど「ミハケなんて妖怪も神様も見当たらなかった」と言われた。

不可解な雨などに関しては、大学で友人だったオカルトサークルの推測によると、

雨で体力を減らす、黒い影で体力を減らすなどをして弱らせて食べようとしていたんじゃないか、とのこと。
B子とかもその類の呪術じゃないか。人の塊に関しては今までの犠牲者を利用した罠じゃないかと。
たしかに、そんな感じがして怖かった。

で地蔵様だけど「獣や昆虫の姿をした人が地蔵をやっているなんてアレでしょ?」と言われた。
もしかすれば神や仏(?)か何かになる修行中の物の怪じゃないかと。
か、そういう邪教の跡地が聖域化していただかナンタラ、カンタラ。

どうして底に「ミハケ様」とか「ワガラ」と言うのが住み着いたのか分からないけど、
「ミハケ=身は化=身は化物」 ってのが物語っているんじゃないかと言われゾッとした

ちなみに一応お祓いなどは全員受けているけど、全員何も異常はなかった。
C男やD男、それに山岳姫の両親も「そういったモノは無いように思う」との事だった。