女子寮の見回り

これは私が18歳、進学のために地元を離れて学校提携の女子寮へ入寮した時のお話です。

寮を選ぶ際、オートロック式のマンションタイプでお風呂やトイレ、キッチン付きの綺麗な所もありましたが、寮費が10万近くのものが多く親に気が引けていました…。
ですがパンフレットの最後に載っていた築40年の寮は月5万円と安く、「住めれば良いから!ここで!」と両親の不安を押し切り、今回の入寮となりました。

私の部屋は3階で6畳ワンルームでした。
設備は机とベッドのみ。風呂は時間が決まっていて、トイレや洗濯機などは全て共用。
更には門限が有り、24時以降は部屋の出入り禁止、外泊の場合は寮母に届け出を出すという感じの、昔ながらの寮という印象でした。
学生生活は順調に過ぎ、友達も沢山できて特に不便を感じず半年が過ぎようとしていた頃、寮生から不思議な噂を聞きました。

「深夜に窓の外で、草を踏んで歩く足音がするんだけど…。」
「あ!それ私も…。人影が見えた気もする…でも怖くて確認できない!」

そう話すのは、全て1階に住む人達です。
「オカルト好きとしては、この目で確認しなければ!」という変な使命感にかられた私は、異変を確認しようと試みました。

早速その日の深夜、窓から階下を観察してみましたが…暗くてよく見えない。
そんな状態で1時間程経過した頃でしょうか。
微かに足音を感じて目を凝らして見てみると、誰かが中庭をゆっくり歩いているようでした。

寮の玄関は施錠されているし、周りは侵入防止(脱走防止?)で3m位の壁がある。その上には有刺鉄線が張り巡らされているので、侵入は困難なはずなのに…。
色々な可能性を考えていると、その何者かの動きが止まって、ふと私の方に顔を上げました。

そこには暗闇の中、無表情でこちらを見る寮母が立っていて、私は言葉にならない声を出しすぐに窓とカーテンを閉めました。

時計を見ると深夜2時。
寮母は一体何をしているのか…?
翌朝、意を決して寮母に理由を聞くと返答がありました。

「昨年、私の旦那が死んでね。寮を守るために彼がしていた夜中の見回りを、私が引き継いでいるの。
あなたみたいに深夜まで起きていたり、脱走する悪い子もたまに居るからね。あの人の分まで頑張るの。」

初めて耳にする話でしたが、一緒に経営されていた旦那様が亡くなられて今は寮母一人。色々な思いもあるんだろう…。
私はそう納得する事にしました。

これで万事解決だと思っていたある日、私は遊びに夢中になって門限に5分程間に合わず、寮母に激怒される出来事がありました。
当時私も若かったせいか「5分位…そんな怒らなくても…」とつい反論してしまい、説教は1時間にも及びました。
そしてその日の夜、いつも通り自分の部屋で就寝していると突然金縛りにあいました。

「え?え?」
と横向きのまま動かない体にパニックになっていると、背中側にある廊下から
「…ペタッ…ペタッ…」
スリッパで歩くような足音が聞こえてきました。

目は動かせますが体が動かず、その間にも足音はゆっくり、どんどん近づいて来ます。
ついに足音が私の部屋の前で止まり、大量の冷や汗と寒気で震えが止まりません。
背後に何かの気配を感じるんです。生温かい空気を当てられている、という感じでしょうか。
すると、静かな男性の低い声で

「お前か…」

訳も分からず心の中で「ごめんなさい!ごめんなさい!!」とひたすら叫び続けました。
するとフッと体が軽くなり、私はすぐさま後ろを振り返りましたが、いつも通りの自分の部屋でそこには誰も居ませんでした。

翌朝、隣の寮生に足跡の事を聞きましたが、誰も聞いていないと言います。
寮には男性が1人も居ませんから、誰かが気付くはずです。

しかも異変はこの日だけで終わらず、不定期ですがコンスタントに週数回、私は金縛りに見舞われるようになりました。
足音は毎回、男性の声は時折聞こえました。
1ヶ月もすると流石に精神的に参ってしまい、事情を両親に話して私は退寮する事になりました。
寮を出たその日から、金縛りが起こる事はありませんでした。

今考えると、亡くなった寮母の旦那さんが心配して今でも寮監を続けているのかもしれません。
そして寮のルールを破った私を叱りに来ていたのかな…とも思います。

 

知らない男子

これは僕が高校の時、学校祭準備期間中に体験した話です。

僕の学校の文化祭では、1、2年生がダンスや歌で盛り上げ、3年生はミュージカルや演劇といった本格的なものを選ぶのが恒例であった。
そういったこともあり、3年生だけ特例で準備期間中のうち1日だけ、出し物や衣装の準備で学校へ宿泊できることになっていた。

宿泊日当日は準備に追われていたが、そこは思春期!笑
時間が経つにつれ、男子はバレーやバスケ、女子は輪を作ってガールズトークと、学校祭の準備から次第にかけ離れていった。

僕も男連中とバレーやバスケに汗を流して1時間ほど経った頃。
友達と休憩がてらステージに腰をかけ談笑していた時、体育館と廊下をつなぐスペースから男子がこちらに向かって手を振っているのに気づいた。
その人は坊主、白T、紫色のジャージという姿だったが、私はすぐ異変を感じた。

「紫色のジャージ…そんな人いたかな?」
隣にいた友達に尋ねようと、一瞬目を離した間にその男子はもういない。

宿泊中のクラスメートはだいたいTシャツにスウェットかジャージであった。
特に僕の高校では中学時代のジャージをあえて履くことが流行っていたこともあり、さらには坊主とくれば野球部ぐらいのもの。どのクラスの誰かはすぐに特定できるはずであった。
しかし、そもそも紫色のジャージは見た事がない。

友達に訊いても
「手を振っていた人なんていないっしょ!紫色のジャージ?先輩か後輩にもらったんじゃない?」
と言うので、僕もそうなのかとそれ以上は気には止めなかった。

それからまた学園祭の準備も放ってバスケを再開し、夜10時頃を迎えた頃。担任教師の提案で肝試しをすることとなった。
クジ引きをして女子とペアを組み、校内の4階にある音楽室に行き指定されたものを持ってくるというルールで、男連中はもちろん意中の女子とペアを組みたい!と願ってクジを引く。
僕は残念ながらマイケルジャクソンというあだ名の女の子とペアを組むことに…。

もはや高校ともなると肝試しも何のその、音楽室に向かう間には担任教師が隠れて驚かす仕組みとなっていたが、そこは舌打ちで乗り切り音楽室の指定された物を持って、体育館へ戻る。
全ペアの肝試しが終了し、その後はクラスメート全員で怖い話をする流れとなり、各々が怖かった体験談を話していた時であった。
あるクラスメートがふと、体育館近くのトイレが施錠されてる理由を担任教師に尋ねた。

僕が入学する何年か前にそのトイレが施錠された事は、先輩を通して聞いていたが理由までは知らなかった。
質問された担任教師はあきらかに困惑した表情をしたが、少し黙った後口を開いた。

「実はあのトイレで命を絶った男の子がいたんだ。
在校生ではなかったんだが、近辺の中学野球部の子で家が近く、夜に忍び込んでトイレで命を絶ったらしい。
そんなこともあって、可哀想だけど今はあのトイレは使用できないように施錠してるんだよ。」

僕は鳥肌が止まらなくなった。
何となくだが、さっき手を振っていた紫色のジャージを着た男子がそれなんじゃないか…そう思ったからだ。

それから何年か経って知ったが、僕より5歳ほど上の男子が中学でイジメられ、さらには僕の通っていた高校の受験に落ちたことを理由に、あのトイレで亡くなったというのが内容だったらしい。
ちょうど僕には5歳離れた兄がいたのでジャージの色を訊いてみると、その時代のその中学校の指定は紫色だった…。

僕に手を振ったのがその男子だったのか定かではありませんが、辛い学生時代を過ごしたその子も私達と一緒に遊びたかったのでしょか?
以上、私の体験した怖い話でした。

 

誰もいないトイレ

私は幼稚園の教諭として働いていますが、これはその勤め先での体験です。

私の勤め先には本舎ともう一つ、倉庫として使っていた古い建物がありました。
昔は先生方の寮に使用していたとのことです。
なので1階はお風呂やトイレ、食堂に使っていたであろう広い部屋があり、2階は畳張りの個室がいくつかありました。

木造なので、歩くとギシギシと音がなり年季も入ってボロボロです。
古い昔ながらのアパートって感じですね。
その雰囲気だけでも怖いのですが、実際に不思議な体験談が多い事もあって誰も行きたがりません。

例えば、ある部屋の窓は何度閉めても翌日には空いている事があります。
2階には誰もいないはずなのに、突然バタバタと何かが動き回る音がよく聞こえる(ネズミとか猫とか、そんな小動物の音ではありません)。
その建物のそばを通るとき、園児が必ず毎年1~2人は
「あのおじさん誰?」
と誰もいない方を指差したり、怖いと言って入りたがらなかったりもします…。

今は倉庫になっているのですが、私達職員もなるべく近付かないようにして、どうしても行く場合は必ず複数人で向かっていました。

そんなある日。
たまたま本舎が工事のため使用できない時、私が夏期休暇保育の担当になってしまいました。
本舎が使えない場合、改装された旧舎1階の一室を使うことになっています。
昼間ではありましたが、私は怖くて本当に嫌でしたが仕方ありません。

園児が多い時間帯は2名体制で職員がいたので安心していましたが、夕方になって園児が大体8名ほどになった頃、もう一人の先生はごみ捨てや片付けなどに行ってしまったのです。
大人は私一人。
でも子供達もいるし大丈夫!と、自分に言いきかせながら我慢します。

「トイレに行きたい。」
ある子が言い出しました。

通常であれば自由に各々がトイレへ行くのですが、場所が旧舎のため1人では怖いのだそうです。
トイレは少し離れたところにあり、1人では確かに少し怖いです。
薄暗くなってきたこともあり、じゃあみんなでトイレへ行こう!という話になりました。

そのトイレは大人用個室がひとつ、男児用便器が2つ、女子用個室が2つという間取りでした。
便器等は新しいものに取り替えていましたが、床のタイルや壁は古くて怖い雰囲気です。
皆で一斉に入ったのですが、ふと気付と大人用個室の扉が閉まっています。

最初はもう1人の職員が入っているものだと思い
「あー○○先生戻ってたんだー」
くらいで気にしていませんでした。
しかしその直後「お疲れ様ですー戻りましたー」と、もう1人の職員が玄関から入って来ました。

「あれ?」

トイレの個室に入っているのは、職員ではない。
扉は鍵が閉まっていて開かないので、ノックしてみました。

コンコン。
「入ってるの誰ー?」

その場にいた子供達もその個室に注目します。
でも返事がありません。
今日は私ともう1人以外の職員はその時間帯におらず、大人ではないと思っていました。
可能性としては、子供が悪戯で入ったのか、などと思いを巡らせながらもう一度ノックします。
すると、一瞬「コン」と音がなりました。

「あ、やっぱり誰か入ってる。」
でも声での返事が無い。
「もうー。誰大人用の入ったのー?」
それでも返事がありません。

本当に誰か入ってるのか?
でもさっきコンっと扉を叩き返してくれた。

誰かがいるものだと思い込んでいた私は、扉の下の隙間を覗いてしまいました。
そこを覗けば必ず誰かの足が見えると思ったのです。
ところが、覗いても足はなく誰もいません。

ゾッ…!と一気に鳥肌が立ちました。
いない!誰もいない!なんで!
私は反射的にすぐさま立ち上がり、子供を連れて部屋へ逃げるように戻りました。

部屋にはもう1人の先生がいて、私の顔を見るなり「どうしたの!?」とびっくりしていました。
私は先生に今起こったことを叫んで伝えたい衝動に駆られましたが、子供がいます。
脅えさせてはいけないと思いました。

念の為、子供の数を数えました。
足が見えなかったのは気のせいかもしれない。
でも、子供の人数は全員揃っているのです。あの個室に入っていたのは子供じゃない。
じゃあ一体誰が中に…?

子供達が部屋で遊び始めてから、先生に小声でこのことを伝えました。
気のせいかもしれないけど、誰か他にいるかもしれない。
防犯の意味もかねて、すぐに2人でトイレを覗きに行きました。

トイレへ着くと、さっきまで閉まっていた扉が開いていました。

もう一度トイレへ行くまでは数分しかありませんでした。その間に誰もそのトイレからは出てきていません。
私達以外にこの建物へ出入りした人がいたとしても、子供達が居る部屋と入口玄関はすぐ目の前です。必ず気付きます。
でも、見知らぬ他人どころか誰も来ていないのです。

本舎の工事が終わってからは、怖さから一歩も旧舎へは近づいていません。
あの日の出来事は一体何だったのでしょうか。本当に怖い体験でした。

 

ベビーベッドの過去

私達家族は、長い不妊治療を経て数年前に第1子となる娘を授かりました。
その当時で、私は40代、妻は30代後半。
もう2人目を作るのは難しいだろうと考え、成長と共に不要になっていったベビーグッズ類は全て処分するようにしていました。

ところが昨年、妻がまさかの自然妊娠。
あれだけ苦労したのにこうもアッサリなのかと驚きましたが、神様からのサプライズプレゼントに興奮を隠しきれなかった記憶があります。

ベビーグッズを捨てた事が勿体無いと後悔しましたが、これも嬉しい悩みだと切り替え、また1から取揃え始めました。

かなりの予算が掛かると予想していましたが、妊娠を知った妻のママ友から衣類やチャイルドシート、おもちゃ類などを頂く事が出来、さほどお金を掛けずにほぼ大半のベビーグッズを揃える事に成功しました。

しかしベビーベッドだけは大苦戦。
どの家族も早々に処分していたり、まだ子供を作る予定があるなどの理由があり、これだけは自分達で買うしかないなと諦めて購入する事にしました。

「1年も経てば不要になるから、なるべく安いものを買おう。」
そう思って休日に子供用品のお店へ行ったのですが…予想以上の価格にビックリ。
1番安い量販店のものでも数万円程度し、ずっと使う訳ではないのにこれは勿体無いと思い、とりあえず購入を保留。
その後妻と話し合った結果、少し抵抗はあったもののお金にはかえられないと考え、中古ベッドの購入を決めました。

しかしこれについてもかなりの苦戦を強いられ、どのリサイクルショップへ電話しても取り扱いが無いか、ブランド物で高い等、なかなか理想の価格が付いた物を見つける事が出来ませんでした。

そんな矢先、たまたま通りかかった所に個人経営のリサイクルショップがあるのを見つけました。
ネットで調べてもお店の詳細な情報は無かったものの、一応ダメ元でお店に入ってみたのです。

するとあったんです!
店内奥に、1台だけベビーベッドが!
値段はなんと3000円。
状態も良く、「ここのお店はベビーベッドの相場を知らないのかな?」と思いつつ、他のお客さんに取られないようすぐ購入。
「こんなに安く買えて超ラッキー!」
と内心大喜びで家に帰って早速組み立て、消毒をし、これで赤ちゃんを迎える準備が全て整ったと一安心しました。

しかしその日の夜中。
娘の唸り声で目が覚め、体を触ってみると酷い高熱が出ていました。
計ってみると39度を超えており、慌てて休日夜間診療所に向かいました。

診断した医者からは
「喉も腫れてないし、肺も綺麗な音。これといった異常は無いけれど…何でこんな熱が出るのかな。とりあえず解熱剤出しておくから、熱が下がらなかったら1度大きな病院で診てもらった方がいいね。」
と言われました。

帰宅して解熱剤を飲ませ、そのまま寝かせましたが症状は全く落ち着かず、翌日に大きな病院を受診しましたが、結局原因は分からないまま。
医師からは食事や水分が十分に取れていないから入院の必要があると言われ、妻が子供に付き添って、私は仕事の都合もあり家へ帰る事にしました。

子供の対応でバタバタとしていたので、疲れと睡眠不足になっていたのか、私は家に着くなりお風呂にも入らずそのまま眠ってしまいました。

それから数時間ほど眠っていたのですが、突然激しく泣く赤ちゃんの声で目が覚めました。

「テレビの消し忘れかな?」
リビングの方に目をやると、ベビーベッドに小さな赤ん坊がいて、ワーワー泣いている事に気が付きました。
「???」
何が何だか分からずパニックになっていると、奥から見知らぬ女性が包丁を持ってベビーベッドに近付いて来るのが見えました。

私は
「おい!何やってんだ!」
と叫ぼうとしましたが、全く声が出ず、金縛りに掛かったような状態でピクリとも動く事が出来ません。
声は出なかったのですが「やめろー!」と叫んだ瞬間、ハッと目が覚めました。

慌てて飛び起きベビーベッドの方に行きましたが、きちんと整えられた状態になっており、そこでようやく夢を見ていたのかと気付きました。
しかしこのベッド買ってから子供も熱を出したし、あれはもしかして夢じゃなくて、あの赤ちゃんが俺にSOS出していたのかもな…と考えました。

妻に事情を話し、念の為近くのお寺にベッドを持って行って供養してもらいました。
するとその後、娘の容体も回復し、まるで何事もなかったかのように元気になったのです。

結局は新品のベッドを購入する事になり、さらには供養に掛かった費用も含めて、かなりの高額になってしまいました。
しかしあの赤ちゃんを救う事が出来たのかなと考えると、これで良かったのだと今でも時々思い出す、私の不思議な体験でした。

 

黒い服のおじさん

私が6歳の頃、母に頼まれて1人で買い物に行った時の事です。

私は母から千円札を1枚と、買う物をメモした紙を手渡されました。
外は真夏で暑かった為か、母も買い物が億劫になってしまったんだなと思いながら、お釣りは小遣いとして貰えると聞いて、喜んでスーパーへ買い物に行きました。
徒歩で20分程の場所にあるスーパーへ千円札を握りしめて、メモはスカートのポケットに入れていました。

道を歩いていると、遠くの方に上下が黒い服、黒い帽子を被った知らないおじさんが、私がいる方向へ歩いてくるのが見えました。
歩道なので他にも行き交う人はいたのですが、何故かそのおじさんだけが気になって仕方ありませんでした。
真夏の暑い日に頭の先から下までが黒い洋服だったので、違和感から注意を引いたのかも知れません。

それでも私は気にしない様にしながら、鼻歌交じりで歩いていきます。
お互いに向かい合って進んでいますから、距離は近づくはずなのに…一向にすれ違う気配がありません。
不思議だなぁ~と思いながらも、私も子供だったので横道にそれて立ち止まったりしてましたから、あまり深くは考えていませんでした。

と次の瞬間、強い風が吹いて砂が舞い、私は両手を顔に当てて砂が目に入らないようにガードしたんです。
一瞬の事だったので、咄嗟に顔を隠したせいか、母から貰った千円札を手放して無くしてしまいました。

私は
(探さなきゃ…)
と焦りながら、自分の周りをキョロキョロと見渡し、歩道の横の草むらを怪しんで踏み入ります。
そんなに雑草が生い茂っていたわけでも無かったので、ガサガサと草をかき分けて千円札を探していると、折り畳んだままのお金を見つけました。

(お母さんに叱られないで済む)
ホッとしながらしゃがんでお金を拾おうとした時、目の前に黒い足が見えたんです。

私は、誰かにお金を取られてしまうと思ってしゃがんだまま
「わ、私のお金です。」
と言って首を上に向けたのですが…
そこには何にも見えなくて、青空だけが広がっていました。

(おかしいなぁ?確かに黒い足がみえたのになぁ…。)
と心の中で思いながら、また下を見てお金を拾おうとすると、やっぱり確かに膝から下の黒い足が見えているんです。

私は、背筋にゾッとする冷たい物を感じました。

恐怖からしゃがんだままお金を握りしめ、じっと動かずにいると、膝から下だけの足が私の横を歩いて通り過ぎるのが見えました。
何が何だか分からなかったのですが、黒い足が私の視野から見えなくなった後、いけないと直感では分かっていたのですが…
しゃがんだまま、少しだけ体の向きを変えて後ろを振り返ってしまいました。

私から少し離れた後ろには、さっき道で見た黒い服のおじさんの後ろ姿が見えました。
私がおじさんの後ろ姿を見ていると、おじさんは振り返ったのです。
そして私と目が合うと、何とも言えない笑みを浮かべて、スッと消えて居なくなってしまいました。

黒い服のおじさんを近くで見て気付いたのですが、私が黒い服だと思っていたのは洋服ではなく、真っ黒に焼けただれた体でした。
それがぼんやりと黒く見えていたんです。
顔だけは黒くなかったのですが、生きている人間ではないというのは確かでした。

私は震えが治まらない体を起こし
(見なかった事にしよう)
と思いながら、なるべく人通りの多い道へ移動して遠回りしながら、スーパーへと向かいました。

黒い服のおじさんを見た道路は通学路になっていて、その後は見る事も無かったのですが、やはり怖いのでなるべく通る事は避ける様になりました。
今でも思い出すだけでゾッとする、私の恐怖体験でした。

 

ホームステイで見た幽霊

これは私がオーストラリアでホームスティをしていた時の話です。

私が20代の時、オーストラリアのパースという所で1ヶ月、語学学校に通いながらホームスティをすることとなりました。
私がホームスティした先は、一人暮らしのおばさんの家でした。

私は常日頃から不思議な体験をすることがあり、実家で大学受験のため夜中2時まで勉強していると家の階段をコツコツ上がってくる音を聞いたり、お風呂に入った後髪の毛を乾かしている際、誰かに肩を叩かれたりする事がありました。
そのため夜寝る時は、蛍光灯などの灯りを1つ必ずつけて寝ていました。

勿論オーストラリアのホームスティでもそうしたかったのですが、そのおばさんはクリスチャンで一戸建ての一軒家。
日本みたいな蛍光灯が無く、寝る際は真っ暗になってしまう作りでした。

正直怖かったのですが、勝手に電気をつけて寝るとホームスティ先のおばさんにも怒られるので、仕方なく真っ暗にして寝ることにしました。

真っ暗にして寝ようとした初日、何だか寝苦しくて何度も目が覚めます。
何度目に起きた時かは覚えていないのですが、起きた瞬間何かが部屋にいる気配を感じました。

何だろうと思い、確認のためデスクにある電気スタンドをつけるため体を起こします。
真っ暗な中、手探りで何とか探して「よかった、助かった…」と思い、電気スタンドのボタンを押そうとタッチした瞬間、冷たい手のようなものが私の手の上に重なりました。

誰もいないはずの部屋、更には暗闇の中です。
その何者かは電気をつけるのを拒んでいるのか、その瞬間に金縛りにあって私の体が動かなくなりました。

すると私の隣に、白く半透明に透けて見える幽霊が現れたのです。
背の高い白人?で、40~50代くらいの女性でした。
彼女は暗闇の部屋の中を踊るようにゆっくり笑顔で周りだしました。

私はその間全く動けず、電気スタンドに手をのせたままその光景を見ていました。
女性の幽霊は、そんな私を見て笑顔で部屋の中をゆらゆら動いています。
私はこれが初めて見る幽霊で、海外だったこともあってか怖いというよりも不思議な感覚でした。

その幽霊は数分位私の暗闇の部屋を周った後、部屋の隅で私の方を見て立ち止まりました。
相変わらず金縛りで動くことが出来ない私を、その幽霊は楽しそうに見てきます。
そしてニコッと笑った次の瞬間、私にめがけて部屋の隅から突進してきました。

私はびっくりして目を閉じたかったのですがそんなことも出来ず、彼女の顔を間近で見てしまいました。
ぶつかってこられた瞬間、何が起こったのか全く分からなかったのですが、やっと金縛りが解けました。
急いで電気スタンドの電気をつけてみると、その幽霊はもうどこにもいませんでした。

その日はもう寝れず、部屋の電気をつけっぱなしにしてベットに横になっていました。
次の日ホームステイ先のおばさんにつたない英語で、昨日幽霊が出て私が電気をつけようとした際、電気をつけさせてくれなくて、そんな私にぶつかって来たことを告げました。
私の話を聞いたおばさんは、小さなイエスキリスト像を私に手渡し、必ずそれを持って寝るように言ってきました。
その人形をベットの横に置いた効果かは分かりませんが、その幽霊は私の部屋に姿を現さなくなりました。

思い返すと本当に怖い出来事でしたが、あの幽霊は私に何がしたかったのでしょうか。日本人の私がただ珍しかったから現れたのでしょうか。
今でも分かりません。

 

出先のホテル

私は職業柄、よくビジネスホテルに滞在する機会がある者です。

私は普段から霊感が強く、冷たい空気や重たい空気を感じる事があります。
確かに人の気配を感じたのに誰もいない、などは日常茶飯事で起こる事です。

そんな私が一番怖くて困っていることは、滞在先のホテルで起こる恐怖体験です。
出先で休む場である宿泊地がそんな調子だと、仕事や体調にも支障をきたすので参ってしまいます。

これはそんな私が霊の存在を強く感じた出来事です。

この時もチェックインを済ませ、ルームキーをもらい部屋へ向かう所々で重たい空気を感じていました。
まぁいつもの事だと自分に言い聞かせ、気づかないふりをして歩き続けました。

そして自分の部屋のカギを開け中に入るや否や、強く重たい空気を感じ
「あ…この部屋、本当にやばいかも…。」
という印象を受けました。
しかし夜になるまで部屋で仕事をするも異変は無く、単なる思い違いだとホッとして外食に行く事にしました。
外食とは言ってもホテルの近くにある定食屋なので、30分くらいで部屋にまた戻ります。

夜の8時くらいだったでしょうか。
部屋に戻ると今までとは全く違う空気感に鳥肌が立ってしまいました。

見えない誰かが部屋の中にいる。
どこにその誰かがいるのかは分かりませんが、同じ部屋の中で私を見ている感じがします。
早急に終わらせないといけない仕事が残っていましたが、正直恐怖心の方が勝り仕事どころじゃありません。
今までにない強い気配に、感じる事は出来ても目に見えない状態はこんなにも人の恐怖心を煽る物なのかと、改めて思いました。

頭の中にある、霊を見てしまうんじゃないかという恐怖。
後ろを向いたら、扉を開けたら、カーテンの隙間から…。

「このままではいけない。」
そう思った私は、居酒屋へ飲みに行き気を紛らわせようと思いました。

それからの3時間くらいは、居酒屋に来ていた地元のお客さんから美味しいお酒を教えてもらい、楽しく過ごす事ができました。完全にホテルの事は忘れていました。
ところがお店も閉店の時間という事なので、重たい足を引きずるようにホテルへ戻ることとなりました。

ホテルの廊下は相変わらず重たい空気で気持ちがめげそうになりましたが、今夜一晩だけの我慢と自分に言い聞かせ、部屋のドアを開けます。
すると先程の嫌な空気感は無く、お酒を飲みに行くという考えはあながち間違いではなかったな、と考えている自分がいました。
それからは酔っていた事もあり、シャワーを浴びて転げるようにベッドで横になり眠りにつくことが出来ました。

どれくらい時間が経っていたのか定かではありませんが、シャワーがすごい勢いで出ている音で目が覚めました。
「どうしてシャワーが?自分が閉め忘れたのか…」
と思い、シャワーを止めに行こうとするも足がすごく重くて動きません。
「えっ…?」
視線を足元へ向けると…

青白い腕がベッドの下から伸びて、私の両足首を掴んでいたんです。

無我夢中で足を動かし、掴む手を振りほどいた私は着の身着のままで廊下へ出て、その勢いで必死にフロントまで走りました。
部屋を変更してもらうべく交渉しようと思いましたが、そこには何故か誰もおらず、仕方なく車の中で朝まで過ごす事にしました。

夢なのか現実なのかよく分からない出来事に、自分でも驚くほど動揺してしまい、しばらくの間震えを抑える事が出来ませんでした。
自分の足首を再度確認してみると、誰かが掴んでいたという証拠がくっきりと青あざになって残っていて、再び恐怖心が蘇りました。

それからはあまりにも気配の強い宿泊先には泊まらない、または遠慮なく部屋を変更してもらうよう、気をつけています。